コカ・コーラ「タブ・クリア」
 1992年初頭から、アメリカでは「クリア(透明)商品ブーム」が流行した。「クリア」という言葉には、清潔、純粋、ピュア、ヘルシーというイメージがあり、それがモノ離れ気味の消費者に受け入れられていた。このブームが決定的になったのはペプシコが市場に投入した「クリスタル・ペプシ」という透明コーラの発売であるといわれている。この製品は、90人のスタッフ、15ヶ月の時間、3000種類のサンプル作成という大プロジェクトから生み出された。

 このブームに遅れまいと、ライバルであるコカ・コーラ社が発売したのが「タブ・クリア」という名の透明コーラであった。「タブ」は1963年にコカ・コーラより発売された低カロリーコーラであり、この「タブ」の透明版が「タブ・クリア」である。前年の1962年には「ドクターペッパー・ダイエット」が発売されていることから、ダイエット食品ブームはこの頃から始まったことがうかがえる。
 「タブ」というと、映画 "Back To The Future"でマイケル・J・フォックス扮する主人公がカフェでタブを注文して店主から「伝票(タブ)は注文の後だ」と言われるシーンがあるが、ここで注文したのがこのタブである。映画の時代設定は1955年であったので、もちろんタブはまだ発売されていない。(タブはペプシコ製品しか出て来なかったこの映画シリーズ中で唯一名前の出たコカ・コーラ製品である)

 日本においても1993年3月にコカ・コーラは「タブ・クリア」を発売した。世界においてもアメリカ、イギリスに次ぐ3番目の発売であり、CMにはニュースキャスターの俵孝太郎を起用、発売前からニュースレポート的CMで「コカ・コーラが全く新しい飲み物を発売する」とアナウンスし、前景気を大いにあおった。
 しかし、売れ行きはメーカーの期待を大きく裏切った。一番の原因は甘味料の選定にあったと思われる。タブ・クリアでは、その前年に発売した「カフェインフリー・ダイエットコーク」同様、パルスイート(アスパルテーム・L−フェニルアラニン化合物)のみを使用したが、この味が消費者に受け入れられなかった。この失敗について、コカ・コーラには前科があった。1984年にコカ・コーラは「コカ・コーラ ライト」を発売したが、これも当初はパルスイートのみを甘味料に使用して100ml当たり1キロカロリー未満を達成したが、売れ行きが芳しくなく、途中から砂糖を加え100ml当たり12キロカロリーとして販売せざるを得なかった。
 コカ・コーラは、タブ・クリアの甘味料に果糖を加え、味を日本人向けに変更したが、時すでに遅く、結局タブ・クリアは1993年の上半期をもって市場から姿を消した。

●タブ&タブ・クリア

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1)タブ/コカ・コーラカンパニー/04919308/355ml/1996年
2)タブ・クリア/富士コカ・コーラボトリング/4902102013475/350ml/1993年
3)タブ・クリア(甘味料変更後)/三国コカ・コーラボトリング/4902102013475/350ml/1993年

●クリスタルペプシ

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4)クリスタルペプシ/ペプシコ/0126680/354ml/1992年


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