そふとどりんく・とーく 第4回

 家族の飲み物、家族の絆

 今年の初め、女優の山岡久乃が亡くなった。
山岡久乃で思い出されるドラマと言えば、私
にとっては小学生の頃、BSNで木曜8時に
放映されていた「肝っ玉母さん」や「ありが
とう」での母親役が思い出される。

 「ありがとう」と言えば水前寺清子、水前
寺清子と言えばCCレモンが思い浮かび、山
岡久乃自身もスプライト・ホームサイズのC
Mに広岡瞬と出演していたこともあるが(山
岡久乃のイメージ通り、スプライトは家族向
けの飲料なのだろう。ちなみに、コカ・コー
ラのホームサイズは作家の壇一雄ファミリー
が出演していたが、コーラが好きなクリント
ン大統領の最近のご様子を見ると、コーラと
いう飲み物は「火宅の人の飲み物」か?)、
今回はこちらの話ではなくて、これらのドラ
マのスポンサーであったカルピスの話をして
みたい。

 この時間に放映されていたカルピスのテレ
ビCMには、ジャネット・リン(札幌五輪に
出場した銀盤の妖精)やオズモンドブラザー
ス(アメリカの白人兄弟グループ。ちなみに、
フィンガー5は和製オズモンドブラザースと
言われていたが、芸風はマイケル・ジャクソ
ンがいた黒人兄弟グループのジャクソン5)
がコマーシャルに出演していた。このような
家庭的な(悪く言えば薬にも毒にもならない)
タレントを登場させ、家族で飲める飲料、家
族で楽しめるホームドラマというものをアピ
ールしていていたのだと思う。

 もう一つカルピス提供のテレビ番組という
と、日曜夜の「カルピス子供劇場」が思い出
される。こちらも「アルプスの少女ハイジ」
「フランダースの犬」「母をたずねて三千里」
など、親子で見られる良質のアニメが続いて
いた。「日曜研究家」主筆で、昭和B級文化
研究家の串間努氏から、「カルピスがスポン
サーにならなかったら日曜のカルピス子供劇
場で「ムーミン」は放映されなかった」とい
う話を以前伺ったことがある。ホームドラマ
といい、アニメといい、これほど「家庭」に
こだわるカルピスの姿勢は評価に値するもの
であったと思う。

 すでに木曜8時のホームドラマは無く(後
番組は『世界まるごとハウマッチ』。最近の
木曜ドラマといえば、木曜9時の『渡る世間
は鬼ばかり』だが、これはネスレが提供なの
で、食卓の上に置いてあるネスカフェのラベ
ルがしっかりカメラの方を向いている)、日
曜のカルピス子供劇場(終了の少し前にカル
ピス単独の提供でなくなり、「カルピス子供
劇場」から「世界名作劇場」という名称にな
った)も数年前に終了した。カルピスも水で
割って飲むコンク製品から、いつでも飲める
カルピスウォーターが主流となり、「家族の
飲み物」から「パーソナルな飲料」にカルピ
スは変わっていった。

 確かに、家族いっしょに飲める飲料という
ものが少なくなった気がする。カルピスは、
必ず水で割って飲まなければならないという
「手間」がある(映画『稲村ジェーン』では
原液カルピス一気飲みのシーンがあったが)
ことも原因の一つであろう。
 以前、何かの本でオカルト作家・荒俣宏が
サラリーマン時代の話を書いていたのを読ん
だことがある。「社内で飲み放題だったコカ
・コーラよりも女子社員の作ってくれるカル
ピスの方がよっぽどおいしかった」と書いて
いる。やはり「作ってもらったカルピスを飲
む」というのが、カルピスの正しい飲み方な
のだと思う。

 カルピスもこれに気づいたのか、昨年夏の
カルピスギフトセットのテレビCMは、帰省
先で家族一緒にカルピスを飲むという内容で
あった。また、台湾版カルピスウォーターの
缶には、「難忘清純的初戀滋味」(『初恋の
味』の中国語訳)と書かれている。ここから
しても、カルピスという飲料は「人と人(の
心)をつなぐ飲料」という意識も根底にある
のだろう。これは、カルピスの創業者、三島
海雲が宗教家であったということが影響して
いるのかもしれない。

 以上の事柄から、飲み物に限らず「食」と
いうもの、「みんなでいっしょに食べる」と
いうのが基本だと思う。コンビニで弁当を買
って一人で食べるということも確かにできる。
でも、これが独り者でなくて家族だったらど
うだろうか。家族は一緒にいてこそ家族とい
うもの。生活の中で一番コミュニケーション
をとれる時間は食事時間ではないか。その時
間が取れないことが、家庭崩壊を招く一因と
なっているのではないかと最近強く感じるの
である。

 今のご時世、家族といえども一緒に過ごす
時間を作るのが難しいのは充分承知している。
でも、仕事ばっかりしていたり、外で遊ぶば
かりが人生ではない。時にはゆっくり家族で
食事をしながらコミュニケーションを図りた
いものだ。腹にたまる栄養も大事だが、「心
の栄養」も充分摂りたいものである。

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