B級グルメ読本 2000/1/15号

非常用食料としてのCレーションを検証する

ワンタッチ江崎 & 久須美 雅士


 今回は阪神・淡路大震災発生から満五年ということで、緊急時の非常用食料について考察してみたいと思います。
 先日の沖縄出張で米軍のCレーション(Combat Ration:戦闘時の携帯食料)を購入し懸賞の賞品としましたが、91年春にも横田基地脇の雑貨店でCレーションを購入したことがありました。なぜか今まで食べずに残していたので、経年変化、味、パッケージングから見て、非常用食料として使えるかどうか、いつもはカレーばかり食べているワンタッチ江崎に検証を依頼しました。(久須美雅士)

Meal,Ready-To-Eat Indibidual
Menu No.11
Ham Slice
Accessory Packet A
 今回はこの味ですが、Menu No.が振ってあることからお判りのとおり、何種類かあるようです。
 生物はレトルトパック、飲料は防湿パッケージになっています。基本的に温めるものは温めて、水やお湯を入れて溶かすものは指示が袋に書いてあるので、その通りにすれば食べることができます。
 マッチが付いているので、水と鍋と燃料となるものさえあれば、指示の通りに食べる事ができます。もしも火や水が無い場合でも食事ができるよう、内容に工夫がなされています。もちろん食事用のスプーンも付いているので、いざという時は直接袋から食べれば、食器も要りません。
Ham Slice(ハムスライス)

 今回はお湯で温めて食べました。スープで煮込んであり、非常に柔らかくなっています。どうしてスプーンだけしか付いていないのかよく分かりました。味はSPAM(沖縄名物のランチョンミート)と同じです。今回の 内容物の中で一番経年変化が懸念された物ですが、何ともなかったのはレトルトパックだったからでしょうか。

Orange Nut Cake(オレンジナッツケーキ)

 オレンジとナッツ片が練り込まれたケーキです。これも色は悪くなっていましたが、味は何ともありませんでした。アメリカのケーキというと、非常に甘ったるいものを思い出しますが、そんなに甘くありませんでした。


Crackers & Cheese Spread(クラッカーとチーズスプレッド)

 クラッカーは一辺10センチもある巨大なものが2枚付いています。ハムといっしょに食べるか、チーズスプレッドを付けて食べるようです。チーズスプレッドは乳製品なので、変質していないか気になりましたが、レトルトパックだったせいか、やや薬臭く、色も悪くなっていますが、食べる分には問題ありません。味は塩味でした。

Fruit Mix(フルーツミックス)

 フリーズドライになっているので、そのまま食べるか、水で戻し て食べるようになっています。今回は水で戻して食べました。内容はオレンジ、バナナ、チェリーをシロップで煮込んだものでして、非常に甘いです。チェリーは着色料で蛍光ピンク色になっていました。デザートとしては充分です。(写真を撮るのを忘れてしまいました。すみません)

Cocoa Beverage Powder(ココア粉末)

 これはレトルトと同じ防湿パッケージに入っていたので、全然固まっていませんでした。充分飲めましたが、何となく後味が良くなかったのは変質していたからでしょうか。

Beverage Base Powder Grape(グレープジュース粉末)

 中にアルミ箔を張ってある紙パッケージだったので、袋のつなぎ目から湿気が入り、固まっていました。しかしながら、水に溶かしたら一発で溶けたのはすごかったです。入れる水の量は12オンス(355ml)。これは缶ジュースの内容量と同じです。味もさほど甘くありません。食事に合わせたのでしょう。

Accessory Packet A(アクセサリーパケットA。真ん中の黒っぽい袋の中に下記品目が入っている)

Coffee Instant Type 1(インスタントコーヒー)
Cream Substitute Dry,Non-Dairy(粉末ミルク)
Sugar(砂糖)
 これらもグレープジュースと同じ紙パッケージだったので、見事に固まっていました。ミルクも完全に変質しており、お湯で溶かしても溶けませんでした。きっと食後のコーヒーということで付いているのだとは思いますが、非常にまずいコーヒーです。これは「早く持ち場につけ」ということで敢えてまずくしているのでしょうか。今回はアクセサリーパケットAだったのですが、Bの方は紅茶になっているのでしょうか。

Gum(ガム)
 ミント味です。これも湿気ていたのですが、噛む分には問題ありません。

Matches(マッチ)
 タバコを吸うために付いているのかなと思いましたが、「それってハムを温めたり、コーヒーに使うお湯を沸かすためじゃないの?」と言われ愕然としました。ここまで考えていたなんて。

Tissues(ティッシュ)
 これも食後の用足しに使うのかと思いましたが、これもお湯を沸かすための焚きつけ用なのでしょうね。

Spoon(スプーン)
 ハムがメインディッシュなのに、どうしてナイフやフォークが付いていないのかと思いましたが、基本的にスプーンで食べられない食品は付いていないのです。

Iodized Salt(精製塩)

 

 盛りつけ例。3年前に久須美が沖縄で購入した米軍のミールトレイを使用。アイテムはトレイの凹みにぴったり収まる。

 トレイの上段左から、クラッカー、フルーツナッツケーキ、フルーツミックス(水で戻す前の状態)、下段左からチーズスプレッド、ハムスライス、塩とガム。飲料は上からグレープジュース、ココア、コーヒー(ミルクが溶けずに固まっている)

 

 試食中のワンタッチ江崎。(顔は本人の希望によりモザイクをいつもより多目にかけております〜)


 9年以上経過している割にはちゃんと食べられたのは意外でした。「保存料をたくさん使っているからだろう」なんて「買ってはいけない」派の人は思うでしょうが、そんな事は気にしていられないと思います。それよりも「食事をするためのシステム」が緻密に考えられていることが分かったのが大きな収穫です。

 Cレーションの袋一つあれば、必要かつ充分な食事が世界中どこでも摂取できるのです。それも「エサ」という感覚ではありません。日本人が戦争に負けるのも無理がありません。極限状況でも使えるシステムを考えられないのが日本人の弱みだと思います。

 たとえば、地震の時の非常用食料を考えるとします。日本人だったら乾パン、缶詰、レトルト食品(カレーやお米)を考えると思います。しかし、何日も味気ない乾パンで耐えられますか。缶詰があっても缶切りが無かったらどうしますか。水やお湯を用意できない状況で、お湯で温めないとおいしく食べられないレトルト食品をそのまま食べますか。食器が無かったらどうしますか。Cレーションは、そういった状況を全てクリアしているのです。

 内容がアメリカ人(それも兵隊)向けということで、日本人の中高年の口に合わないかもしれませんが、非常用食料としての価値は非常に高いと思います。日本でもこのような「システムとしての食事」が考えられた非常用食料が開発されることを望みます。それまでは、何かの機会に数食購入しておくというのも良いかもしれません。

 (ワンタッチ江崎)


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